受け口(反対咬合)の矯正や手術と費用について
上の歯よりも下の歯が前に出てしまう「反対咬合」。
いわゆる「受け口」と呼ばれる症状で、程度によっては日常生活に支障がない場合もありますが、見た目の問題などからもできるだけ改善したいと望む人はたくさんいます。
今は特に支障がなくても、放っておくことで虫歯や歯周病をはじめとしたお口のトラブルを引き起こしてしまう恐れもあるので、できるだけ早く治療をしておきたいですよね。
そこで今回は、受け口の症状や治療法について詳しくご紹介したいと思います。
受け口(反対咬合)について
まずはご自身の状態について確認しましょう。
受け口(反対咬合)の症状や原因についてまとめてみました。
受け口(反対咬合)とは?
私たちの歯は上の前歯が下の前歯よりもほんの少しだけ前に出てかぶさっている状態が正しい噛み合わせです。
反対咬合はその名の通り上下の噛み合わせが逆になっている状態で、下の前歯が上の前歯よりも前に出ている症状を指します。
また、反対咬合の方は前歯だけでなく下の奥歯が上の奥歯よりも外側に出ていることがあり、これが原因で顎がどんどん歪んで顔が非対称になってしまうこともあります。
反対咬合は、「受け口」の他に「しゃくれ」などと呼ばれることもあり、見た目も悪く、コンプレックスを抱いている人も少なくありません。
また、歯だけでなく下顎全体が前に出ている場合は「下顎前突症」と呼ばれます。
反対咬合の原因は?
反対咬合になる原因は日常生活の癖や習慣、成長の過程、遺伝が関係していることが多いと考えられています。では具体的に、どのようなことが原因で起こるのでしょうか。
■悪い癖や習慣
反対咬合で最も考えられる原因が、日常的に行なっている悪い癖や習慣によって歯が徐々に前に押し出されてしまうことです。
例えば、舌の位置が通常よりも低い位置にある「低位舌」という状態で唾をゴックンすると、舌が下の前歯を押し出してしまいます。
また、下顎を突き出すような癖も反対咬合になりやすく、こちらは特に骨格に問題のある下顎前突症の場合に多いようです。頬杖をつく癖も顎の成長に悪影響を及ぼします。
■骨格の問題
上顎と下顎の成長のバランスが悪いことが、顔の見た目だけでなくかみ合わせにまで影響していきます。
上顎に比べて明らかに下顎の成長が大きい場合や、下顎は問題が無くても上顎が十分に成長せず小さい場合などは反対咬合になりやすくなります。
■歯の生える向き
下の歯が外側に向かって生えている場合、上下の歯を噛み合わせた時に上の歯が下の歯の内側に当たってしまうため、下の歯がさらに外へと押されてしまいます。
■遺伝
子供の歯並びの約30%は両親からの遺伝によるものといわれています。
特に、骨格的な問題をもつ下顎前突症は不正咬合の中でも遺伝的な影響を受けやすいとされ、ご家族や親せきの方にも反対咬合の方がいる傾向にあります。
受け口(反対咬合)のデメリット
長く反対咬合の状態で生活してきた人のなかには、「今すぐに生活に支障があるわけでもないし……」と、治療の必要性を感じていない人もいるかもしれません。
しかし、反対咬合を放置しておくと、虫歯や歯周病などのお口のトラブルはもちろん、発音や滑舌など日常生活に関わる問題も出てきます。
反対咬合を放置することで起こるリスクをご紹介します。
審美性(見た目)に欠ける
反対咬合は横から見ると顎が突き出ているように見えるため、見た目に大きく問題が生じます。
人前に立つことや写真を撮られることに抵抗を感じるなど、精神的な影響を及ぼすことも考えられます。
虫歯や歯周病が悪化する
反対咬合を放置することで最も危険なのは、歯の寿命が低下するリスクが高まることです。
反対咬合は上下の歯がうまく噛み合わせることができないため、噛む力が均等に分散されず特定の歯に過剰な力がかかってしまい、その歯からダメになってしまいます。
また、口が閉じにくいことで口呼吸になりやすく、お口の中が乾くと虫歯や歯周病の原因菌を流す役割のある唾液が減少し、虫歯や歯周病になりやすくなるのです。
不十分な咀嚼で胃腸に負担がかかる
「歯並びと胃腸にどんな関係あるの?」と驚いた人も多いでしょう。
実は、上下の歯がうまく噛み合わさっていないと、食事の際に十分に物を噛むことができません。
咀嚼能力が低下すると唾液が十分に分泌されなかったり、食べ物を十分に噛み砕けないまま飲み込んでしまうことで、消化不良を起こしやすくなります。
顎関節症
反対咬合のように上下の歯の噛み合わせが悪いと、噛み合わせるたびに顎がずれて顎関節症を引き起こしやすくなります。
上下の歯だけでなく左右均等に力が加わらないことも、顎関節に負担がかかってしまう原因です。
顎の筋肉や関節の痛み、顔や顎の骨の変形などお口周辺の症状はもちろんのこと、肩こり、めまい、頭痛や自律神経失調症など、お口以外の全身に影響を及ぼしてしまう場合があります。
滑舌が悪くなる
歯が正しく噛み合わさっていないことで滑舌が悪くなったり。歯の隙間から空気が漏れて正しく発音することが難しくなります。
人前で話す際に不自由を感じたり、発音や滑舌の悪さがコンプレックスになるなど、人間関係やコミュニケーションに影響を及ぼすことも考えられます。
このように受け口を治療せずに放置することで、周りの人からの第一印象や健康に影響を及ぼしてしまうことが考えられます。
受け口(反対咬合)の治療のタイミングや注意点
子供と大人の場合に分けて解説します。
子供の場合
子供の治療の場合には、歯の生え変わりや顎の成長のタイミングに留意する必要があります。
上顎の成長が活発に行われる小学校低学年までに反対咬合の矯正治療を検討されるのがベストといえるでしょう。
■小学校入学前
3歳児検診で反対咬合を指摘されたからといって、慌てる必要はありません。
乳歯列期の段階から切端咬合や反対咬合の場合でも、大人の前歯に生え変わったときに通常のかみ合わせになることもあります。
反対咬合によって食事がしづらかったり、見た目による親子の精神的なストレスがある場合には、乳歯列の段階から治療を開始するのもひとつです。
■小学校低学年
大人の前歯のかみ合わせが切端咬合または反対咬合と判明した時点でまずは、歯列矯正専門のクリニックで矯正相談しましょう。
この時期は上顎の成長が著しいため、この成長を利用することで効果的に反対咬合が改善しやすくなります。
■小学校高学年~高校生
これ以降に歯列矯正で反対咬合を治療開始する場合には、基本的には歯を動かして噛み合わせを整えていくことが中心になります。
大人の矯正治療を前提として、下顎の成長が落ち着く時期(男性は18歳前後、女性は16歳前後)まで経過観察をしてから治療を開始する場合があります。
*子供の受け口の矯正治療の注意点*
■乳歯列期に反対咬合を治しても、大人の前歯が生え変わり反対咬合が再発する可能性がある
■小学生や中学生で反対咬合を治しても、下顎の成長により反対咬合が再発する可能性がある
■治療が終わった後も成長が落ち着くまで経過観察が必要となるため、治療期間が長くなりやすい
大人の場合
成長がある程度落ち着いた大人の場合はベストなタイミングというのは特にありません。
むしろ、放っておくことでお口のトラブルや体へ様々な部分へ影響が及んでしまうことも考えられるので、できるだけ早く治療を受けることが望ましいと考えられます。
そういった意味では、反対咬合はできるだけ早いタイミングで治療を行うことがベストだと言えそうですね。
*大人の受け口の矯正治療の注意点*
■歯列矯正で反対咬合を治しても、保定装置の使用状況が悪かったり舌の悪い癖が改善されない場合、反対咬合が再発する可能性がある
受け口(反対咬合)の治し方
子供の矯正の場合はマウスピース、フェイシャルマスク、リンガルアーチなど受け口の状態によって様々な矯正器具を使い分けます。また、顎の幅を広げるために拡大装置も併用する場合があります。
大人の矯正の場合は一般的な成人の矯正治療と同じく、ブラケットやマウスピースなどの矯正器具を使った治療方法となります。
上顎と下顎のズレが大きいほど抜歯の可能性が高くなります。さらに、歯列矯正のみでの治療が難しい場合は外科手術を併用した矯正治療が必要となります。
よく使われる代表的な装置について詳しくご紹介していきましょう!
子供の矯正装置
■マウスピース型矯正歯科装置
既製のマウスピース型矯正歯科装置なので歯型をとる必要がありません。
お口周りの筋肉のバランスを整えつつ、前歯の反対咬合のかみ合わせの改善を図ります。基本的には夜寝る時に使用します。
■フェイシャルマスク
上顎前方牽引装置とも呼ばれ、上顎の前方への成長を促す装置です。
上顎が成長する時期に使用します。お家にいる時や寝る時に装着し、1日に10時間以上の使用が好ましいとされています。
大人の矯正装置
■一般的なブラケット矯正
歯並びが大きくズレている場合など複雑な反対咬合は、ブラケットによる矯正方法が用いられます。
金属製の器具を装着し、ワイヤーの力で歯を少しずつ正しい位置に動かす方法です。
全体的に下の歯が上の歯よりも出ている場合は全体矯正が必要ですが、下の前歯だけや一部分だけが外側に向いている場合などは、一部の歯だけにブラケットを装着する部分矯正も可能です。
金属製のブラケットによる治療が主流ですが、最近では樹脂でできたものやセラミック製などの目立ちにくいブラケットも多く使用されているので、用途や費用など自分に合ったものを選ぶことができます。
金属製にくらべて樹脂製やセラミック製は少し高額になりがちですが、比較的安い金属製は見た目に目立ちやすいなど、それぞれメリットとデメリットがあります。
程度によって異なりますが、受け口・反対咬合の平均的な治療期間は2~3年程度です。
■マウスピース型矯正歯科装置による治療
歯が複雑に重なっていない場合や、該当する歯が数本程度など軽度の反対咬合は、マウスピースでの矯正治療が可能です。
歯型をとり、自分の歯の形にカスタマイズされたマウスピースを使用します。
矯正治療の進み具合にあわせて少しずつ形を変えたマウスピースに交換しながら、徐々に歯並びを整えていきます。
自分で取り外すことができるので、矯正治療にありがちな衛生面での悩みも少なくなります。透明や半透明のマウスピースを使用するため、見た目が目立ちにくいのも特徴です。
■顎変形症の場合は外科手術が必要
歯が外側に向いた反対咬合は矯正器具を使った治療が可能ですが、上顎や下顎の骨格的なバランスに大きな問題がある場合は、歯を動かすだけでは歯並びを整えることはできません。
上顎が小さい、下顎が大きいなどの場合や、下顎の位置が前方に出ている場合には、顎の骨の手術を伴う矯正治療が必要になります。
基本的には、手術の前後に歯列矯正を行いかみ合わせを整えていきます。
手術では全身麻酔をかけて口の中で処置をするため、顔や顎に大きな傷跡が残ることはありません。顎の骨の手術になるので、術後に安静にしておく期間も含めて10日前後が一般的な入院期間です。
事前の精密検査や、術後の経過観察も含めると、3年〜4年程度で治療が完了します。
受け口(反対咬合)の歯列矯正の費用の相場は?
それぞれの治療法や器具のおおまかな費用は以下の通りです。
- 子供の矯正治療:10~60万円
- 部分矯正:15万円~60万円
- 表側のブラケット矯正 :60万円~100万円
- 裏側のブラケット矯正(リンガルブラケット):110万円~150万円
- マウスピース型矯正歯科装置:80万円~110万円
- 保険治療の手術を伴う矯正治療(手術と入院費込み):30万円~50万円
クリニックや症状によっても料金は異なりますので、矯正相談を受ける際に治療に必要な費用をしっかりと確認しましょう。
受け口(反対咬合)の矯正治療が保険が適用されるケース
一般的な矯正治療は健康保険の適用外です。
しかし、国が定める先天的な疾患が原因で噛み合わせに異常がある、または手術が必要なほど顎の歪みがあるものに対する矯正治療は保険適用となり、健康保険の範囲内で治療を受けることができる場合があります。
このような場合、どこの歯科医院でも矯正治療を受けられるわけではなく、顎口腔機能診断施設に指定されているクリニックや大学病院などの医療機関で受診する必要があります。
自分では自覚していなくても、保険適用に当てはまる場合もあります。
まずはかかりつけの歯医者さんで相談し、必要であれば専門機関に紹介してもらうことをおすすめします。
治療費の一部が軽減される!確定申告時に行う「医療費控除」とは?
年間の医療費が高額になった場合、確定申告時に医療費を申請すれば一部の金額を税金から控除してもらえる「医療費控除」という国の制度があります。
治療を受け、一定の金額を超えた場合には誰でも受けることができる制度なので、費用面で治療をためらっている場合は、この制度を利用することも視野に入れてみてはいかがでしょうか。
一年間の医療費を、次の年の2月16日〜3月15日までの期間に税務署にて確定申告をすれば適用されます。
矯正治療の費用だけでなく、治療の際に処方された薬代や通院のための交通費(タクシーやマイカーのガソリン代は対象外)なども医療費控除の対象となります。
医療費控除の申請には、実際に支払った医療費の領収書の原本が必要となるので、大切に保管しておきましょう。
詳しくは、国税庁の公式サイトをご確認ください。
まとめ
費用面や矯正治療期間の不安、もし手術が必要になった場合などを考えると、治療をためらってしまう人も多いでしょう。
しかし、できるだけ早く治療を行った方が、それだけ残りの人生を快適に過ごせるなど治療のリスク以上の大きなメリットもあります。
まずはお近くの矯正専門クリニックに相談することからはじめてみませんか?
Check Point
■受け口の原因は遺伝だけでなく、日常生活の舌の癖や口呼吸などによって引き起こされることもある。
■受け口は、見た目の問題だけでなく体の不調や滑舌に影響する場合がある。
■子供の受け口は小学校の低学年までに一度、歯列矯正専門のクリニックで矯正相談するとよい。
■大人の受け口は上顎と下顎のズレが大きいほど抜歯の可能性が高くなり、歯列矯正のみでの治療が難しい場合は外科手術を併用した矯正治療が必要となる。
■受け口の治療期間は子供も大人も2~3年前後
■費用の相場は子供の矯正で10~60万円、大人の矯正で60~150万円
■通常の矯正治療は保険適応外だが、手術を伴う受け口の治療の場合は保険治療が適用される場合がある。