口呼吸と歯並び、鼻うがいについて矯正専門の歯科医師が解説
「一年中、鼻炎でお口呼吸してしまう」
「いつもお口をポカンと開いている」
ご自身やお子様で該当しませんか?
口呼吸による体への悪影響はよく聞くと思いますが、歯並びにも影響が出ることが考えられます。
今回は口呼吸と歯並びの関連、対応策としての鼻うがいについてご説明します。
口呼吸について
本来、人間のが呼吸する際に行うべきなのは鼻呼吸です。
しかし、小さなお子様を含め大人の方でも口呼吸の方が多いのが実情です。
口呼吸をしてしまうとどうなるのか、口呼吸から鼻呼吸に切り替えるにはどうすればよいのか見ていきましょう。
口呼吸について
口呼吸は前々から体にはよくないと言われていますが具体的にはどんなことが口の中や体に影響を及ぼすかを簡単にまとめました。
口呼吸による口の中での症状
- 口の中が乾燥し、口臭の原因になりやすい
- 口唇が乾燥し、荒れやすい
- 歯の着色が起こりやすい
- 歯茎に炎症が起こり、赤く腫れやすい
- 不正咬合になりやすい
- ベロが悪い位置になる
口呼吸による全身に起こる症状
- 姿勢が悪くなり、猫背になりやすい
- ホコリや細菌が体内に入りやすく、体調を崩しやすい
- 集中力が低下しやすく、仕事や勉強に影響する
どれか一つでも思い当たるものはありませんか?
もしかしたら、それは口呼吸によるものかもしれません。
次に口呼吸と歯並びについてご紹介します。
口呼吸と歯並び
私たちの歯は骨の中にあり、周りの筋肉によって位置が保たれています。
具体的に歯の周りの筋肉とは頬(頬筋)や口(口輪筋)や舌(舌筋)のことです。
口呼吸は歯の周りの筋肉のバランスを崩して悪い歯並びを引き起こしてしまいます。
歯周病により骨が溶けて歯が動いてしまうなんてことを聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、歯を囲む筋肉のバランスが崩れた場合でも歯は動いてしまうのです。
※外側は口輪筋と頬筋に、内側は舌筋により歯は支えれており、バランスが崩れると歯は傾いてしまいます。
例えばお口をポカンとしている人は
・本来、前歯を外側から支える唇が触れなくなることで、前歯が外側に傾いてしまう。
・口がすぼんで頬筋に力が加わり、歯列の幅を狭くしてしまう。
・舌が下に位置し、舌の悪い癖が発生して、さらに不正咬合を引き起こす。
このようなことから、矯正治療でせっかくきれいに治したとしても、口呼吸のままだと後戻りを引き起こすリスクを高める悩ましい種の1つなんです。
特に矯正相談にいらしゃるお子様で口呼吸されている方が多くの割合を占めており、歯並びだけでなく口呼吸などの日常の悪い癖についても対処しなくてはいけません。
では、そもそもなぜ口呼吸になってしまうのでしょうか?
日常での呼吸を口から鼻へ修正していこうと考えた場合、口呼吸を引き起こしてしまう原因を特定し、それに対し適切な対応をとる必要があります。
口呼吸の原因と対処法
口呼吸は以下の3つのいずれか、または組み合わさって生じてしまいます。
■出っ歯などの不正咬合により口が閉じにくい
■習慣性の口呼吸
■アレルギー性鼻炎や蓄膿症、扁桃肥大による鼻閉(鼻づまり)
が挙げられます。次にこれらの対処法について簡単に説明していきましょう。
不正咬合が原因の口呼吸の場合の対処
出っ歯などの歯の位置が原因でお口が閉じにくい状態を”口唇閉鎖不全”と呼びます。
口唇閉鎖不全は口呼吸を促すだけでなく、口元がだらしない印象を与えます。
また、無理に口を閉じようとすると下顎のオトガイ部に梅干しのようなシワができる状態になるので、見た目的にも好ましくありません。
矯正治療により、歯並びを適切な位置にしてあげることで口元を改善し、お口を閉じやすくすることができます。
また、子供の矯正治療で上顎を拡大することにより、鼻腔の面積が広がり鼻の通りをよくすることもできます。
習慣性の口呼吸の場合の対処
一時的に花粉症や風邪により口呼吸していたが、その後も口を開ける癖がついてしまい習慣性の口呼吸になってしまう方がいます。
このような方は、口を閉じる筋肉が弱い傾向がみられます。
そのため、口を閉じる意識を持つことや口の筋力トレーニングを行う必要があります。
簡便に行えるトレーニング方法として、みらいクリニックの今井一彰先生が推奨する『あいうべ体操』で舌や口輪筋などの口周りの筋肉を整えてあげます。
鼻閉(鼻づまり)による口呼吸の場合の対処
厚生労働省に資料によるとアレルギー性鼻炎は国民の4割、小学生のアレルギー性鼻炎の有病率は依然増加、スギ花粉症有病率の10年間の推移は中高年でも増加と報告されています。(厚生労働省の鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版より)
耳鼻科への通院や日常での鼻うがいにより、鼻の通りを良くしてあげる必要があります。
特にアレルギー性鼻炎の方の場合、「鼻閉(鼻づまり)」→「習慣性の口呼吸」→「悪い歯並び」のような負の流れを起こしてしまうため、矯正治療をするうえでもこの点に注目しなくてはいけません。
自宅でできるケアとして鼻うがいがおススメです。
注意事項をしっかりと把握した上で、歯ブラシと同じように取り組んでいきましょう。
鼻呼吸の重要性
他にも鼻歌を歌ったり、声を響かせたりもしますよね。
でも、それ以外に呼吸の観点で鼻特有の2つの能力があるのをご存知でしょうか?
フィルター機能
1つ目はフィルター機能です。
鼻から入ってきた空気に含まれるホコリやウイルスをろ過して異物が体に侵入することを防いでくれます。
大きな粒子は鼻毛でつかまえてくれます。
小さい粒子は粘膜層でつかまえ、繊毛運動によりのどや胃にベルトコンベアーのように運ばれて
タンとして排出されたり、胃酸によって無毒化されます。
こうすることで風邪やインフルエンザなどの病気にかかりにくくしてくれます。
※鼻は細菌やウイルスなどの異物(ボール)をブロックするゴールキーパーとして働きます。
加温・加湿機能
2つ目は加温・加湿機能です。
鼻の奥行きは数センチしかありませんが、空気がここを通過する際に加温・加湿することで肺の温度や湿度に近い状態まで整えてくれます。
これにより、肺において酸素が効率的に取り込まれるのと同時に肺を保護してくれます
※鼻は体内の加温加湿器として働きます。
鼻うがいについて
鼻うがいとは?
最近、テレビや雑誌で鼻うがいを取り上げられたことで『鼻うがい』というワードを耳にする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
鼻うがいとは鼻腔の中に洗浄液を流して、カゼやインフルエンザの予防・アレルギー性鼻炎などの鼻疾患や花粉症に効果が期待される民間療法で、インドで何千年も昔から行われていた衛生法です。
鼻うがいの必要性
鼻に関しては歯科医師である私の専門外ではありますが、なぜ鼻うがいについて触れるかというと先ほども言いましたように歯並びと呼吸が密接な関係があるからです。
もちろん、鼻づまりに関しては耳鼻科の専門の先生に診ていただくことも大切ですが、歯科医師である私にも何かお手伝いできることができないか、毎日の生活の中で患者さん自身で予防や症状の軽減できないかと考えてきました。
そこでいくつか検討したところ、私の中で鼻うがいが一つの有効な手段になりえると現在考えています。
鼻うがいの効果
まず第一に、鼻うがいによって鼻の通りがよくなり、口呼吸から鼻呼吸への改善が図れることが期待できます。
さらに、もう一つ重要な効果が期待されます。それは上咽頭の感染リスクを減らすことです。
上咽頭とは鼻腔の後方に位置する空気の通り道で、そこにはアデノイド(咽頭扁桃)と呼ばれる免疫機能に関連する組織が存在します。
また、この付近には自律神経系のツボがあるといわれ、上咽頭に炎症が起こると自律神経の調節障害により様々な不定愁訴(頭が重い、疲労感が取れない、イライラするなど症状を訴えるが原因の見つからない状態)を訴える場合があります。
上咽頭部の組織を顕微鏡で見てみると、上皮細胞同士の間には多くのリンパ球が存在し、いつでも細菌やウイルスと戦う準備ができており、それ程この場所を守ろうとしていることがうかがえます。
このことから上咽頭が体にとって重要であるかがわかると思います。
下の図は鼻うがいした時の洗浄液の流れを示しています。
(※図では顔を起こしていますが、この商品で鼻うがいする際には前かがみになって行ってください)
鼻うがいの器具、やり方、注意点について
鼻うがいってどうやるの?おすすめの器具は?
”サイナスリンス”という商品です。
使った方の8割が気持ちよかった、7割が効果を感じたと評価されている商品で、鼻うがいは自宅で小さなお子様から年配の方まで誰でもでき、体に負担の少ないものとなっています。
さらに、体液と同じ浸透圧の洗浄液(粉を水に溶かして作る生理食塩水)なので誰しもがプールや海で味わったことがあるツーンとした痛みはないようになっています。
鼻うがいのやり方と体験報告
説明書の内容をざっくりと書きます。
➀専用のボトル(240mlの容器)に温めたお湯を満たし、サッシェと呼ばれる専用の粉を溶かして生理食塩水をつくる。
②顔を真下に向け、ボトルの先端を片方の鼻の穴にあてて、口を半開きにして「え~」と声を出しながらボトルを握ります。
するとボトルから洗浄液が反対の鼻の穴もしくは口から流れてきます。
➂次に反対の鼻の穴に移します。このように左右交互に鼻の穴にゆっくりと洗い流します。
ただ、頭で理解しても、やっぱりプールのツーンとする記憶がよみがえるため最初は少しためらいました。
が、意を決して半信半疑でやってみると、
鼻うがい1日目:なんか変な感じだけど、本当に痛くない!不思議。。。鼻の中の汚れが落ちている気がする。とりあえず続けてみよう。
鼻うがい2日目:まだ慣れないけど、洗われている感じする。
鼻うがい3日目:気持ち鼻の通りがよくなった気がする。
鼻うがい4日目:3日目より効果がでてるな
鼻うがい5日目:気持ちいい。鼻がスースー空気が良く通る。毎日やらないと。
という感じでそれ以降は自然と鼻うがいの習慣ができ、今では家族で毎日1回行っています。
もちろんはじめのうちはめんどくさいと思うかもしれませんが、歯ブラシと同じで習慣をつけてしまえば、鼻うがいすることを苦になることはありません。
むしろ、だんだん効果がでてきてやらなきゃという感じになってきます。
鼻うがいの注意点
鼻うがいを行うに当たり、以下の点に注意しましょう。
➀鼻うがいを行う頻度は1日に1~2回。やりすぎるとかえって鼻を傷つけてしまいます。
➁ボトルを押すときはゆっくりと洗い流す。鼻うがい後に鼻をかむ際はやさしく。これを守らないと洗浄液が耳の方へ流れてしまい、中耳炎のリスクを高めます。
➂違和感や痛みがあった場合は無理にやらない。
④耳や鼻の病気で治療中された方は、耳鼻科の先生に相談してからにしましょう。
鼻呼吸や口呼吸と歯並びの関係についてのまとめ
口呼吸の方は鼻の機能を十分に活かしきれておらず体の健康だけでなく歯並びにも大きく影響してしまうデメリットがあります。
そのため、これから意識的に呼吸改善を検討されてみてはいかがでしょうか。
食事は口で、呼吸は鼻で本来体に備わった機能を十分に活かし、健康な生活が送れるようにまずは自宅でできるケアとして毎日の歯ブラシと鼻うがいを取り組んでいきましょう。