過蓋咬合(深い咬み合わせ)の矯正治療や費用を歯科医師が解説!
「下の前歯が上の前歯で隠れてしまう」
「上下の前歯が深くかみ合っている」
「下の歯が上の歯ぐきを咬んで痛い」
などでお悩みであれば“過蓋咬合”と呼ばれる状態が考えられます。
この“過蓋咬合”は見た目のデメリットだけでなく、顎の関節に悪影響を及ぼすリスクがありますので、矯正治療による改善がおすすめです。
今回は矯正専門の歯科医師が“過蓋咬合”に関する治療や費用について詳しく解説します。
過蓋咬合の症状と原因について
まずは過蓋咬合の症状や原因についてみていきましょう。
過蓋咬合とは
過蓋咬合とは上下の歯や顎の垂直関係の異常により、通常よりも咬み合わせが深い状態の歯並びを指し、専門用語で“ディープバイト”と呼びます。
通常の上下の前歯は垂直的に2〜3mm程度重なっているものですが、過蓋咬合の方はそれ以上に重なってしまうことにより、下の前歯が上の前歯で隠れてしまいます。
さらに重度の方だと、下の前歯が上の前歯の裏の歯茎に食い込んでだ跡ができてしまいます。
また、水平関係の異常があると、上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)を伴った状態となります。
厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、日本人の不正咬合の4.8%がこの“過蓋咬合”に該当します。
過蓋咬合の原因
過蓋咬合の原因は以下のタイプの単独か組み合わせによって起こることが考えられます。
歯が原因のタイプ
前歯と奥歯の2つの原因が考えられます。
前歯が大きく傾いていることや、過萌出(通常以上に伸びて生える)していることがよく見られる原因です。
また、奥歯の萌出不足、咬耗(咬む面のすり減り)、虫歯により奥歯が低い位置にあることでも過蓋咬合が起こりやすくなります。
顎の骨が原因のタイプ
顎の骨の形や回転により、深いかみ合わせを引き起こしているタイプです。
骨は遺伝や咀嚼筋の強い発達と関連していると考えられます。
咀嚼筋のうちの咬筋が発達すると、世間一般的に”エラ張り”と呼ばれ、過蓋咬合になりやすい傾向にあります。
悪い癖
下唇を吸ったり咬んだりする、強い力で噛みしめるなどの癖により歯の位置や傾きに異常をきたし、過蓋咬合を引き起こしてしまう場合があります。
過蓋咬合のリスクやデメリット
過蓋咬合は見た目だけでなく、健康面にも影響がでてしまうリスクがあります。
過蓋咬合にはどんな問題があるのかを見ていきましょう。
見た目のコンプレックス
過蓋咬合は歯を出してニコッと笑ったときに、上の前歯の歯茎も一緒に大きく見えてしまう“ガミースマイル”を引き起こしやすいかみ合わせです。
これは、上の前歯が伸びて生えてしまっていることが原因の1つとして考えられます。
ガミースマイルに関してはこちらの記事をご参考ください。
上の前歯への負担
カチッと咬む際に、下の前歯が上の前歯に強く当たる場合は、上の前歯に外側へ押す力が働き、出っ歯の状態が悪化することが考えられます。
また、慢性的に負担がかかってしまうことで前歯の寿命が短くなるリスクがあります。
歯茎の炎症を引き起こしやすい
カチッと咬む際に、下の前歯が上の前歯の裏の歯茎に食い込んでしまう場合は、咬むたびに歯茎に刺激が加わりことで、歯茎が下がったり、痛みが生じます。
補綴物が壊れやすい
上下の咬み合わせの当たりが強いことで、被せ物やブリッジなどの補綴物が壊れやすかったり、外れやすい状態であると言えます。
顎関節に負担がかかり、痛みなどが発生しやすい
上顎の歯に深く覆われることで、下顎は動きを制限された窮屈な状態になります。
これにより、顎の関節に悪影響を及ぼして顎関節症を誘発するリスクが高くなります。
子供の過蓋咬合の矯正治療について
ここでは子供の過蓋咬合の矯正治療の内容についてご説明します。
当院では子供の過蓋咬合の場合、上の前歯が大人の歯に生え変わった小学校2〜3年生あたりの混合歯列期からの治療をお勧めしております。
子供の矯正治療のメリットや器具について解説します。
子供のうちから始めるメリット
咬み合わせが悪いと、今後の顎の成長発育に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
成長の残っている子供の時期に過蓋咬合を治すことで、顎の成長発育を正しい方向へと導くことができるのが子供のうちから始めるメリットであると言えます。
子供の過蓋咬合の治し方
過蓋咬合の原因が何なのかによっても治療方針は異なります。
歯の位置や傾きが原因で過蓋咬合を引き起こしている場合が多いため、その歯の動かし方に合わせた矯正器具を使用します。
また、悪い歯並びはお口周りの筋肉のアンバランスや悪い癖とも関連がありますので、当院ではMFT(口腔筋機能療法)も同時に行って、口腔機能の改善を図っております。
過蓋咬合の治療は再発しやすいので、治療後も注意深い経過観察が必要です。
子供の過蓋咬合に使用する矯正器具について
子供の矯正治療の場合、過蓋咬合の原因により使用する器具は異なります。
当院では、過蓋咬合の原因が歯であればマウスピース型矯正歯科装置、永久歯が生える隙間が不足している場合には拡大装置、顎のズレがある場合には顎の成長を利用して整える装置を組み合わせて使用します。
大人の過蓋咬合の矯正治療について
ここでは、大人の矯正治療の治し方や器具についてご説明します。
大人の過蓋咬合の治療法や治し方
大人では顎の成長を利用した治療法はできないため、
上下の前歯の圧下(歯を沈める)や臼歯の挺出(歯を生やす)をメインに行います。
顎の骨の要因が強く、歯を動かすだけでは改善が難しいと予想される場合には外科手術を併用した矯正治療が必要となります。
大人の過蓋咬合に使用する矯正器具について
マルチブラケット装置による治療が一般的です。
過蓋咬合でも前歯の傾きやガタツキの状態によって抜歯の有無や本数が異なります。
ガミースマイルで上の前歯を大きく動かす必要がある場合などには、歯科矯正用アンカースクリューを用いた治療を検討します。
顎の骨に植え込んだスクリューを固定源として、効果的に動かしたい歯を動かすことができます。
歯科矯正用アンカースクリューに関しては下記の記事をご参考下さい。
過蓋咬合の矯正治療の期間や費用について
気になる過蓋咬合の治療にかかる期間や費用についてご説明します。
過蓋咬合の矯正治療の期間や通院頻度
歯並びの状態にもよりますが、治療期間は2年程度で、通院頻度は1~2か月に一回です。
矯正器具を外した後は、後戻りの防止のために保定装置(リテーナー装置)の使用と半年に1回程度の定期的な通院が必要となります。
過蓋咬合の矯正治療費は?費用の相場や内訳について
一般的な過蓋咬合の矯正治療は保険適用外です。
では、治療の段階別にかかる費用をみてみましょう。
治療前の費用:0〜6万円程度
矯正治療を開始前に相談や精密検査を受けます。
相談後に、治療に進む予定であれば精密検査でレントゲン撮影や歯型とりなどを行います。
治療中の費用:子供10~50万円程度 大人80~120万円程度
費用は治療に用いる器具の種類によって異なり、マウスピース矯正や舌側矯正は目立たないぶん高額になりやすいです。
子供の矯正治療後に大人の矯正治療が必要な場合、一般的に同一のクリニックであればその差額分をお支払いすれば移行できます。
治療後にかかる費用:1万円〜10万円
クリニックによっては、保定装置代の支払いが別途で必要なのかが異なります。
しっかりと確認しましょう。
まとめ
過蓋咬合は見た目だけでなく、健康面でもあまりよろしい歯並びとは言えません。
まずはお近くの矯正専門のクリニックで矯正相談をしてみてはいかがでしょうか?