歯科矯正用アンカースクリューってどんなもの?
新しい治療法として近年注目されているアンカースクリュー矯正。
しかし、新しい治療ということもあって矯正専門のクリニックでも取り扱っていないところもあり、患者さんにまでアンカースクリューの情報が浸透していないのが現状です。
「アンカースクリュー矯正ってどんなもの?」
「アンカースクリューは見た目が痛そうで怖い」
「費用はどれくらいかかるの?」
などわからないことだらけだと思います。
そこで今回は歯科矯正用アンカースクリューについて矯正専門の歯科医師が解説します。
歯科矯正用アンカースクリューってどんなもの?
まずは歯科矯正用アンカースクリューによる治療(アンカースクリュー矯正)とはどんなものかを解説します。
歯科矯正用アンカースクリューとは
歯科矯正用アンカースクリューとは直径1.4~2mm、長さは6~10mm程度のチタン合金からなる矯正治療専用に開発された小さなネジです。
これを顎の骨に植え込み、固定源として歯を動かしていく治療法を”アンカースクリュー矯正”や”インプラント矯正”などと呼ばれています。
アンカースクリューをうまく使うことで従来の治療では難しかった歯の動きが可能となり、治療の幅が広がりました。
しかし、歯茎にネジが刺さっている見た目から「痛そう」・「怖い」と感じてしまう方も少なくありません。
ですが実際のところは、アンカースクリュー矯正を受けられた方の多くが最初に抱いていた印象と比べて痛みが少なかったと感じる傾向にあります。
何かあった時にも早急な対応をすれば大きな問題にならないことがほとんどです。
歯科矯正用アンカースクリューは一般的な歯科インプラント(人工歯根)とは異なり、矯正治療で一定期間(だいたい1~2年程度)使用して必要なくなったら外し、傷口が残ることはありません。
なぜアンカースクリュー矯正が必要?
従来の矯正治療では、ワイヤーでつながった”歯と歯”をお互いに引っ張り合いながら歯並びを整えていました。
お互いが綱引きをしている様なものなので、欠点として”動かしたい歯”だけでなく”動かしたくない歯”までもが一緒に動いてしまいます。
これを補うためにヘッドギアという装置を使いますが、取り外し式で見た目に影響してしまうので外出中には装着できず長時間の使用が難しいこと、患者さん使用時間を守らないと効果が十分に発揮されないことに欠点がありました。
このような問題点があったために歯科矯正用アンカースクリューが開発され、”骨と歯”での引っ張り合いにより動かしたい歯だけを効率よく動かせるようになりました。
また、スクリューであればお口の中でコンパクトに収まるために24時間いつでも力を作用できるのでより精度の高い治療結果が期待でき、患者さんにとって気になる違和感や見た目の改善が可能となりました。
アンカースクリュー矯正のメリット
アンカースクリューを使うことによるメリットについて見ていきましょう。
患者さんにとっての負担の軽減
他の装置と比べてコンパクなため、見た目や違和感の軽減が期待できます。
また、取り外し式ではないため患者さんの手間を省くことができます。
治療期間の短縮
動かしたい歯だけを効率よく目的の位置に動かすことが可能となり、治療期間の短縮が期待できます。
治療の幅が広がる
従来の矯正治療では難しかった歯の動きが可能となったことで症例によっては選択肢が増えることにつながります。
歯を抜かない選択肢
従来の治療では抜きざるを得ないような症例も、奥歯の位置をコントロールすることでアンカースクリュー矯正により一部対応が可能となりました。
難症例への対応が可能
開咬(上下の前歯が噛み合わないかみ合わせ)やガミースマイル(笑った時に上顎の歯茎が多く見える口元)など従来の矯正治療では改善が難しく、外科手術になりやすい症例もアンカースクリュー矯正により対応が一部対応が可能となりました。
アンカースクリュー矯正の注意点(痛みや成功率など)
次にアンカースクリューの気になる注意点やリスクについてまとめました。
アンカースクリューの痛み
歯茎にネジが刺さっている見た目から強い痛みを連想されるかたもいらっしゃると思います。
そんな気になるアンカースクリューに関連する痛みに関してご説明します。
アンカースクリューを植え込む処置の痛み
少量の麻酔を使用して、アンカースクリューを植え込みます。
処置が適切に行われていれば、心配されるような強い痛みはありませんし、出血もわずかです。
処置後2~3日は軽度の痛みを感じる方もいらっしゃいますので、鎮痛剤をお渡しして服用していただきます。
アンカースクリューを使用中の痛み
アンカースクリューが安定してからは特に違和感や痛みは感じなくなる方がほとんどです。
頬に擦れて、口内炎になる場合には擦れにくいように対処してもらいましょう。
アンカースクリューを除去するときの痛み
表面麻酔を行ってから取り外しますので、痛みはほとんどないかわずかな程度です。
抜けてできた小さな穴に関してはすぐに治りますので空きっぱなしということはありません。
アンカースクリューの成功率
残念ながらすべての方が使用できるわけではありません。
一般的な成功率は7~8割程度といわれ、10人に2~3人はアンカースクリューが安定せずに抜けてしまうことがあります。
若年者やタバコを吸う人、お口の中に汚れが多い人はスクリューの成功率がより低くなります。
また、患者さんの体質(顎の骨の固さや全身疾患の有無)、歯科医師の技術によっても左右します。
アレルギーのでにくい素材ですが、金属アレルギーがある場合には担当の歯科医師に念のためお伝えください。
アンカースクリューの再設置や代替え案の可能性
アンカースクリューが安定せずに抜けてしまった場合には別の箇所に植えなおしますが、それでも抜けてしまう場合にはアンカースクリューを使用しない治療法を選択する必要があります。
そのような場合は、治療のゴールが少し変更となる可能性があります。
アンカースクリューによるリスク
植え込む場所によっては、スクリューが歯の根や神経や血管の近くを通る場合があります。
スクリューの向きや角度によっては当たってしまい傷をつけてしまう可能性があります。
強い痛みやひどい出血が万が一ある場合にはすぐに対処してもらいましょう。
アンカースクリュー矯正の費用と設置する治療の流れ
アンカースクリューの費用や実際の治療の流れについて見ていきましょう。
アンカースクリューの費用
アンカースクリューの費用はクリニックによってそれぞれです。
通常の矯正料金に追加で1本につき¥5,000~¥35,000あたりが相場といえます。
アンカースクリューの設置の流れ
当院でのアンカースクリューを設置する処置の流れをご紹介します。
レントゲン撮影と同意書の記入
より安全に処置を行うために、植え込む場所の細かなレントゲン撮影を行います。
健康状態(病気や投薬の有無など)の確認をし、アンカースクリューによるリスクをご説明します。
ご納得いただいてから同意書を記入していただきます。
アンカースクリューの設置
消毒と少量の麻酔をし、アンカースクリューを入れ込みます。
処置自体は通常は1本あたり5~10分程度で終わります。
骨の固い場所の場合には、事前にドリルで穴開けをしてから入れ込みます。
鎮痛剤や必要であれば抗生物質を処方します。
その後、アンカースクリューのお手入れについてご説明します。
アンカースクリューの設置後の状態確認
2週間後にアンカースクリューが安定しているか、お手入れが適切かを確認します。
安定が確認できた時点で、アンカースクリューの使用を開始します。